発端はYouTubeだった。
これまでYouTubeといえばミュージッククリップかプロレスしか見たことがなかったのだが、ここ数年、静かなブームになっているという「ソロキャンプ」を検索したところ、ハマってしまったのである。
テントを張って火を起こし、焚き火で料理をするだけの動画ばかりなのだが、なぜか引き込まれるものがある。
焚き火に魅せられたのだろうか。
とりわけ「伊豆のぬし釣りキャンプ」という男性ふたりのYouTuberの動画は、映像も編集も凝っていて実に雰囲気がある。
焚き火をして、バナナにチョコをはさんで焼き、まずはチョコバナナでシングルモルトを楽しみ、それから分厚い和牛ステーキを焼いて、ジントニックを飲む。
持参したウィスキーが、ボウモア12年と宮城峡、ジントニックは肉専用と称して黒胡椒を振るといったこだわりも渋い。
チョコバナナとウィスキーという組み合わせは意外に思うかも知れないが、ウィスキーとチョコは昔から定番である。
キャンプだと、料理も家庭のキッチンのようにはいかないが、その不便さまで含めて楽しいのだろう。
バンビことパンクな彼女も喜んで見ていたのだが、パンクだけに自分もすぐやりたくなるのを失念していたのが失敗だった。
バンビはあれこれ調べたあげく、スウェーデン製の飯盒、メスティンの人気が高いことを知って、さっそく取り寄せてしまった。
メスティンはスウェーデンのポータブルストーブのメーカー、トランギアの製品なのだが、飯盒とはいえ、炊くだけではなく、煮る、蒸す、炒める、焼く、燻すと万能の調理器具なのだとか。
トランギア公認の『メスティンレシピ』には、たしかに飯盒料理とは思えぬ料理が並んでいるので驚いた。
表紙のパエリアは、まだ分かるが、レモンローズマリーチキンだのミートパイからローストビーフまで多彩なメスティン・レシピが紹介されている。
バンビはお米のとぎ汁を煮て、シーズニングを済ますと、さっそく御飯を炊いていた。
美味しく炊けたが、さすがに土釜のような甘みと香りはない。
続いてバンビは手羽中のビール煮に挑戦。
手羽中をビール、醤油、きび砂糖、ニンニクで煮るのだが、こちらもうまくいったものだから、バンビは得意の絶頂に。
メスティンばかりではなく、コッヘルでアサリのワイン蒸しを作ったりして、食卓にアウトドア用品が並ぶようになってしまった。
かくして、わが家の食卓は、普通の器とキャンプ用品が混在する不思議なものになってしまったのである。
パンクだから仕方がないが、いいのだろうか、これで?