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城戸朱理のブログ

2016年01月18日

持つ者、持たざる者



昨秋の総務省の労働力調査によると、非正規雇用の労働者は、前年同時期比で38万人増加して2003万人に達し、就労人口の38%を占めるまでに至った。

今や、東京都の人口をしのぐ労働者が、派遣などの非正規雇用であり、その過半が生活保護水準以下のワーキングプア層となってしまっているのだから、これは異常な事態と言うしかない。


消費税を8%に引き上げるとともに、政府・日銀によって円安が誘導されたわけだが、円安は自動車を始めとする輸出産業には有利に働くものの、小麦粉や大豆などの輸入品は値上がりすることになり、庶民の食卓を直撃している。

しかも、消費税は、さらに10%まで引き上げられるわけだから、状況はさらに悪くなるだろう。


実際、日本のGDPのうち、輸出が占める割合は10%にすぎないわけだから、60%近い個人消費が低迷すると、景気は停滞することになる。

消費税値上げ前のデフレ化でも好調だったコンビニの売上さえ下がったが、非正規雇用の増加は、経済と社会の不活性化を招いたとしか言えないのが、日本の現状だろう。


新自由主義を代表するサプラサイド経済学におけるトリクルダウン理論は、富める者がさらに富めば、自然とその富が貧困層にまで滴り落ちるというものであり、アベノミクスもこの理論を背景にしている。

だが、供給側(サプラサイド)だけに着目し、供給力の増大によって経済成長が達成されるとするサプラサイド経済学は、供給されるものが需要と等しいことを理論の前提としている。

この前提は、経済学者、ジャン=バティスト・セイが提唱したため、セイの法則と呼ばれるが、供給を拡大すると、需要もそれに応じて拡大し、供給と需要が等しいものになるという、およそ非現実的なものであり、経済学者からは批判の対象となっている。

目の前に商品を積み上げられたからといって、それが必ずしも欲しくなるとは限らないことを思えば、サプラサイド経済学の現実味のなさが分かるだろう。

また、ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティーグリッツ・コロンビア大学教授は、トリクルダウン理論を、経済理論にも、歴史的な経験にも反するものとして批判しており、
サプラサイド経済学もトリクルダウン理論も、大企業と富裕層が、既得権益を拡大するための根拠として仮構されたものでしかないというのが識者の指摘するところである。


何よりも、日本における非正規雇用と貧困層の増加が、それを証明しているではないか。

たしかにアベノミクスによって、昨年の名目GDP(国内総生産)は28兆円増え、500兆円を超えたし、雇用も110万人以上、増えている。

問題は、大企業や富裕層の富が増大しても、企業と富裕層の富が上積みされるだけで、低所得層や貧困層に配分されないことであり、その行き着く先は、アメリカのように1%の富裕層が99%の貧困層を支配する社会にほかならない。

今や、アメリカでは年収1500万円以下が中間層、シリコンバレーの大卒新入社員の平均年収が1800万円と、日本では考えられない所得体系となっているが、一方で年収200万円以下の貧困層は5000万人に及ぶ。

今のところアメリカ経済は順調で、平均所得も右肩上がりなのだが、そのほとんどが上位数%の富裕層の所得増加分であり、所得下位60%には還元されていない。

2000年以降、アメリカではインフレが続き、物価は13年間で35%も上がったが、庶民の実質賃金は、同じ期間で27. 6%も下がり続けたため、庶民が貧困層に転落し、深刻な格差が生じた。

そして、物価が上がり、実質賃金が下がるというのは、今日の日本の現状なのだから、現在のアメリカの姿は、近い将来の日本のそれにほかならないのは簡単に予想できる。


こうした事態に憂慮して、中間層の崩壊と貧困層への転落を食い止めるべく、アメリカの次期大統領有力候補であるヒラリー・クリントン元国務長官は、「インクルーシヴ・キャピタリズム(包括的資本主義)」を旗印に掲げたが、具体的にどんな富の再配分ができるのかは、まだ未知数のままだ。


世界中でテロが多発し、中近東で、そして東アジアで、安全保障が深刻化するなか、ひたすら持つ者がさらに富み、持たざる者がさらに失っていくという新自由主義が世界を覆っていく。

これが、破局への序奏としか思えないのは、私だけではないだろう。
posted by 城戸朱理 at 04:58| エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする