古書業界の用語で「せどり」というものがある。
古本屋で、転売目的で本を買うことで、
「背取り」から来ているのだろうが、
文芸書の初版価格が高騰した1970年代には、
「せどり」を本業とする人もいて、
これを「せどり師」と呼んだ。
そんなことで商売になるのかと思う人もいるだろうが、
当時は、「せどり」で、
若者の年収ていどをひと月で稼ぐ猛者もいたらしい。
梶山季之に、せどり師を主人公にした
「せどり男爵」の連作がある。
70年代には文庫の棚を占有していた人気作家の梶山季之も
今、手に入るのは『せどり男爵〜』のみ。
結局、本好きは、本がらみの本が好きということだろうか。
「せどり」で利益を出すには、
地方と中央で価格差がなければならない。
東京郊外で数百円で売っていた本が、
神田で数千円で売れると、
その差額から交通費を引いた額が利益になるわけで、
パソコンが普及し、情報が日本中に行き渡るようになった今では、
せどり師じたいが存在しえないのではないかと
思っていたら、さにあらず。
私が会ったのは、脱サラでネット古書店をやっている人だったが、
彼はブックオフあたりで数百円で仕入れた本を
ネットで数千円で売り、ひと月の売上が、
多いときだと40万円ほどになると言っていた。
ただし、仕入れ代や交通費など
経費に25万円ていどはかかるそうだから、
40万円の売上のうち、利益は15万円。
決して、儲かる商売とはいえないし、
何よりも本を知っていないと出来ない仕事だが、
本業ではなく、サイドビジネスとしてならば、
十分に成り立つのかも知れない。
ただし、素人がコンスタントに
仕入れをするのは至難の技で、
一日中、歩き回っても、
めぼしい本が見つからないこともあるのは言うまでもない。
ちなみに、ネット古書店の彼は、
ブックオフが新たにオープンするときは、
初日に出かけ、めぼしい本を抜いてくるのだと言っていた。
ブックオフでは、稀に掘り出し物があるのは事実だが、
これは、本当にごくごく稀なこと。
商売にしようと思ったら大変だが、
せどり師という言葉には、
なにか怪しくも、惹かれるものがある。


