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城戸朱理のブログ: 辻協『存分に恵みの食卓』(文化出版局)

2016年12月27日

辻協『存分に恵みの食卓』(文化出版局)

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古書店で値がつかないものと言えば、料理本である。

基本的には実用書だから当たり前だが、それも江戸時代の料理本となると貴重な食文化の歴史的資料になるわけだし、明治から昭和初期のものならば、今となっては分からない当時の食卓の様子を伝えるものとして、別の価値を持つことになる。

そうなると、もう古書たりうるわけだが、そうではないここ30年ほどの料理本は、格式の高い古書店では決して扱わないし、BOOK・OFFあたりに流れてしまうのが現実だろう。


しかし、そうした料理本のなかにも見逃しがたいものがあったりする。

私にとって、辻協『存分に恵みの食卓』は、そんな一冊だ。

辻協さんは、辻清明夫人。
辻清明といえば、信楽焼きの名工として名高い。

「別冊太陽」で特集が刊行されたほどの人気陶芸家で、酒を愛し、酒器を始めとする骨董の収集家としても知られた。

辻協さんは、やはり陶芸家として料理が映える器を作り、人気があった方である。


この本のどこが面白いかというと、陶芸家の暮らしと眼差しが、あちこちに感じられることだろう。

辻夫妻が、奥多摩に登り窯を築いたのは、昭和30年(1955)のこと。

当時は、ガスも電気もなく、蝋燭を明かりに、料理は囲炉裏で。

近所の農家のおばさんに教えてもらって、芋や野菜を育て、多摩川で雑魚を獲る半陶半農の生活を営んだという。

そんな暮らしのなかで育まれた料理を紹介する本だから、よくある料理本とは一線を画する。


春ならば、摘んできた野草で、鮭と野草の柿の葉包み寿司、野草の天ぷら、かたくりのお浸し、山うどの酢味噌煮和え。

裏庭に出た筍で、筍御飯を炊き、竹皮包みの中華ちまきを作り、筍のおから詰めをあつらえる。

初夏の鰹は、丸ごと一尾を買って、酒煮、しょうが煮、焼き鰹のサラダと、中落ちやカマまで無駄にしない。

作った料理は、古器を交えた自作の器に盛り付けて、家族に来客に供する。

陶芸家の暮らしを垣間見るようで、それが、また、楽しい。


辻協さんの本は、20年ほど前にも別の料理本を持っていたのだが、仕事関係で貸し出したところ、紛失してしまった。

当時は、本を見て、蕎麦の実の雑炊や牡蠣の黒胡椒炒り、さらにはアップルパイなどを作ったが、素朴ながら滋味あふれる料理が手軽に作れるものだから、重宝したのを思い出す。

つまり、実用書としても役に立ったことになる。


『存分に恵みの食卓』は、先日、入手したものだが、手放しがたい一冊になりそうだ。
posted by 城戸朱理 at 08:31| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする