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城戸朱理のブログ: 菊石朋『耳の生存』(七月堂)

2017年01月18日

菊石朋『耳の生存』(七月堂)

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文庫本のサイズで、本文は44ページ。

小さくて薄い、蕭洒な本だが、その見かけとはうらはらに、一冊で一篇の長篇詩を収録する力作が登場した。

『耳の生存』とは、不思議なタイトルだが、耳という言葉が示すように、言葉を聞くことの可能性と不可能性をめぐって、生者と死者、自己と他者の輪郭をなぞっていくかのような趣きがある。



わたしは見ていた
それが
名前を与えられるようなはじまりならば
終わりはなくなる 泥土の深い静けさの中で
頭骨は輝いているのだと それは、
わたしの頭の中の ときめきのような痛みで
共鳴しあい、そこから涙があふれるようだ
孤独というのならば
夏の空よりも晴れ 雨より冷たく
わたしのからだは目覚めている


これが長篇詩の始まりなのだが、これから何かが起こるのではなく、すでに何事かが起こってしまったかのような事後の感覚に満ちた始まりだと思う。

その感覚は、一冊を貫くものの予兆であるとともに、主題を指し示しているのではないだろうか。


なかほどに村上昭夫『動物哀歌』の「雪」の引用をはさんで、ゆるやかに繰り広げられるのは、生の鼓動と死の呼吸にほかならない。

『耳の生存』は、著者の第一詩集。

ひとりの詩人の誕生を刻む、鮮やかな一冊である。
posted by 城戸朱理 at 10:30| 詩誌・詩集評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする