サーチ:
キーワード:
Amazon.co.jp のロゴ
城戸朱理のブログ: 「裏勝り」と刺青

2020年02月17日

「裏勝り」と刺青

IMG_0319.JPGIMG_0314.JPG



現代では、刺青と聞くと「反社会的」という言葉は条件反射のように出てきてしまうが、かつては決して「反社会的」なものではなかった。

幕末から明治にかけて、日本を訪れた欧米人の多くが、日本における刺青に言及しているが、それを読むと、刺青は庶民が「粋」を誇示する装飾にほかならなかったようだ。


「火事と喧嘩は江戸の花」と言われたほど、江戸は火事の多い町だったが、当時の消火活動は、燃え移りそうな家屋を倒して延焼を食い止めるというもので、武家屋敷の火災には大名火消しと定火消しが、町人の居住地では町火消しが消火に当たった。


異端美学の研究者、平井倫行氏によると、町火消しは、火消しに向かうときは半纏の無地藍染めの表に水をかぶって出かけ、無事に消火を終えたときは、派手な絵柄の裏地を表にして凱旋したそうだが、この絵柄が刺青の絵柄と通底するものなのだとか。

江戸時代には幕府によって、たびたび奢侈禁止令が出され、人々の服装の素材や色・柄まで制限されたが、町民は絹の着物が禁止されると、裏地に絹を用い、さらに裏地に凝った絵柄を施すなど、反骨ぶりを発揮した。

これを「裏勝り」と呼ぶが、平井さんは「裏勝り」を身体化したものとしての刺青を考察しようと考えたらしい。


武士や大店の主人、火消しの頭は刺青を入れることがなかったそうだから、「裏勝り」は、そうした階級の人々に好まれたのかも知れない。


こうした嗜好は日本だけのものかと思っていたのだが、稀に欧米の服にも「裏勝り」を見いだすことがある。


家内はパンクだけに、いつもヴィヴィアン・ウェストウッドを着ているが、最近、愛用しているハリスツイードのコートは、いかにも英国的な手紡ぎのウール地でありながら、ヴィヴィアンのアイコン、ハート型のラブカラーというデザインで、しかも風景画をプリントした裏地が使われている。


写真は私のジャケットだが、赤系のツイードでシルクの裏地には花鳥画がプリントされており、これも「裏勝り」と言えそうだ。

これはフリーダ・ジャンニーニ時代のGUCCIのジャケットだが、別に赤系のツイードが欲しかったわけではなく、この裏地に惹かれて購入したもの。

つまり、私も「裏勝り」に食指が動いたということになる。

このジャケットには、GUCCIが同じコレクションのときに出した黒地に黒の糸で鳥を刺繍したセーターを合わせる。



見えないところに施された装飾、その深層は、たしかに刺青に通底するものなのかも知れない。
posted by 城戸朱理 at 00:18| エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする