今年は桜の開花が早かった。
例年なら、鎌倉では4月になってから染井吉野が咲き始め、染井吉野が散って葉桜になるころ、山桜が満開になるのだが、今年は3月後半には、山桜が先に満開となり、山桜が散るころ、染井吉野が咲き始めた。
そして、5月。道を歩けば、あちこちに花が咲き、山々には山藤が紫にけぶるようで、麗らかな日々が続いている。
新型コロナウイルスの感染拡大さえなければ、素晴らしい春として記憶したかも知れない。
感染爆発が起こった国々では、強硬な外出禁止令が出され、人々は在宅を余儀なくされているが、日本のように自粛で家籠りをしている人も少なくない。
人間が家から出ないため、世界は様変わりしているようだ。
ハワイのノースショアでは海亀が群れ、ニュージーランドだったろうか、市街を羊が我が物顔で闊歩し、日本の沿岸部でも、普段と違ってイルカやエイの姿が確認されている。
「人間がいないところ、自然は荒涼を極める」。
これはウィリアム・ブレイクの詩句だが、人間がいないほうが、地球の動物は伸び伸びと過ごすことができるのだろう。
鎌倉では、ウグイスが鳴き、殿入川には鴨が泳ぎ、木にはリスが駆け回っているが、これはいつものこと。
コジュケイとガビチョウの鳴き声がやかましい。
ところが今年は、わが家のベランダから手を伸ばせば届くところの枝に、ヒヨドリが巣を作り始めた。
ヒヨドリは雄が巣作りをし、雌は上空で見張り役をつとめ、危険を察知すると鳴いて知らせるらしい。
バンビことパンクな彼女が気づいて、洗濯物に身を隠しては、望遠レンズを持ち出して、写真を撮ったり、動画を撮ったりしていたのだが、3日ほどで居心地のよさそうな巣が出来上がった。
5月が終わるころには、雌が卵を抱いていることだろう。
小さな来訪者のおかげで、ささくれだった日々が少し別のものになった気がする。