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城戸朱理のブログ: コロナ時代の読書~川勝義雄『魏晋南北朝』(講談社学術文庫)

2020年06月21日

コロナ時代の読書~川勝義雄『魏晋南北朝』(講談社学術文庫)

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コロナ禍のおかげで、読書の傾向が明らかに変わった。


藤沢周氏から室町時代が舞台の小説は書けるのに、現代物は筆が進まないというメールが来たが、目の前の現実が一変してしまったのだから、それも当然かも知れない。

生活が激変してしまったので、藤沢さんも現代を舞台とする小説が書けなくなったのだろうし、私も読むのが辛くなった。

これは純文学に限ったことではなく、ミステリーでも同じで、手が伸びない。

こうした感覚は一時的なものだろうが、自粛生活に入って、私が熱心に読み耽っていたのは、川勝義雄『魏晋南北朝』(講談社学術文庫)だった。



私が『三国志』や『水滸伝』といった中国の物語に夢中になったのは小学生のときで、小学五年のとき、両親に連れられて初めて訪れた神田古書店街の信山社で岩波文庫版の『三国志』全10巻を揃えたものだった。

中国への関心は、その後も変わることなく、『論語』や『老子』『荘子』なども読み、小学、中学の読書感想文に『論語』を選んで書いたこともある。


それだけに、6年前、杭州に白居易(白楽天)や蘇軾(蘇東坡)ゆかりの西湖をたずね、北京から北上して万里の長城を歩いたときは感慨深いものがあった。

西湖には、中国史上、『三国志』の関羽と並ぶ武将として名高い抗金の英雄、岳飛を祀った岳王廟もあるのだから、なおさらである。



ところで、以前から不思議に思っていたことがあった。


後漢が滅び、魏・呉・蜀の三国が鼎立した『三国志』のような分裂の時代は、西晋による中国全土の統一で終わったわけではない。

西晋はわずか10年で「八王の乱」と呼ばれる内乱の時代を迎え、それから隋によって全土が統一されるまで、さまざまな国が興っては滅びていった。

後漢の末期から隋建国に至る「魏晋南北朝」の400年は政治的分裂の混乱期であり、西晋滅亡後は、五胡十六国の時代になる。

異民族の五胡の国に漢民族の国が勃興と滅亡を繰り返し、400年にわたって戦国時代が続いた。

にもかかわらず、この時代の中国の文化は、魏の建安文学の隆盛から始まって、書なら王羲之、絵画なら顧ト之、詩なら陶淵明、さらに南朝粱の昭明太子による隋唐以前の文学作品を収めた『文選』の編纂と実に華々しいものがある。

建安文学は魏の曹操(武帝)の庇護のもとで花開いたが、曹操の三男、曹植が「詩聖」と呼ばれ、王羲之が「書聖」、顧ト之が「画聖」と称されることからも分かるように、魏晋南北朝は分裂と混乱のなか、中国芸術のジャンルが成立した時代でもあった。


戦乱と文化的な隆盛がなぜ共存しえたのか。


この逆説が、長年の疑問だった。

川勝義雄『魏晋南北朝』は華北と江南の生産力の違いや社会の変容を明らかにすることで、おそろしく混乱した「輝かしい暗黒時代」を描き出す。


もちろん、安易な答えがあるわけではない。

ただ、中国における一貫した貴族制社会が、つねに教養ある文人であることを条件とし、武人が華々しい戦功を挙げたとしても、それだけでは貴族階級には受け容れられなかったという記述には教えられるものがあった。

このことは、これからも考えていきたいと思っている。
posted by 城戸朱理 at 17:42| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする