日本では、家庭料理にさえ中華やイタリアン、あるいはエスニックまで、多彩な料理が入り込んでいるが、こんな国は日本だけだろう。
欧米では、驚くほど毎日、同じものを食べている国が少なくないし、ドイツやフィンランドのように温かい料理を食べるのは昼だけという国もある。
日本の場合、和食が基本で、そこに各国の料理が入りこんでいるわけだが、和食と言っても、地方によって食材も調理法も違うのだから、郷土料理まで含めると、そのバリエーションはたいへんなものになることだろう。
郷土料理でも、宮崎の冷汁や山形のだしは有名だが、奄美大島の鶏飯や油そうめんなどは、わが家でも定番になっている。
先週は、昼食に秋田のきりたんぽ鍋を作ったり、信州のほうとうを作ったりした。
秋田では比内鶏で出汁を取り、ささがきゴボウ、舞茸、鶏肉ときりたんぽを煮るが、ほうとうは現地で食べたことがないので、信州では、どんな具材を使うのかが分からない。
適当にカボチャやしめじ、人参に白菜、鶏肉などを入れて、ほうとうを煮込んでみた。
私の知らない郷土料理も、まだいくらでもありそうだが、若宮大路のユアーズで杉山直文店長に髪を切ってもらっているときに、店長が青森出身なのを思いだし、懐かしさを覚える郷土料理はないかを尋ねてみた。
「貝焼き(かやき)ですかね。
大きな帆立の貝殻で、味噌と帆立、ネギと玉子を入れて焼くんです」
青森の陸奥湾は帆立の産地で、私も子供のころ、両親と恐山に行く途中で、初めて活帆立を炭火で焼いたものを食べて、その美味しさに驚いた記憶がある。
だが、味噌で帆立を焼く貝焼きは知らなかった。
そういえば、秋田にも、茄子と塩クジラを味噌で煮る茄子の貝焼きがある。
これは夏に暑気払いとして食べるものだと聞いたが、昔は塩クジラは庶民のものだったし、帆立もの貝殻も大きかったのだろう。
さらに、杉山さんが言うには、焼肉といえばジンギスカンで、上京して初めてジンギスカン以外の焼肉があることと、ジンギスカンが羊肉であることを知ったというのだから面白い。
地域ごとの食文化の違いは、風土によるものであって、たとえば魚であれば糸魚川のフォッサマグナを境に、西日本がブリ文化圏、東日本がサケ文化圏になるが、基本的には西日本と東日本、沿岸部と山間部で異なるのではないだろうか。
考古学者が日本全国の貝塚を調査した結果によると、縄文時代には西日本がナッツ型、東日本がサケ・ナッツ型、北海道がエゾシカ・サケ型の食生活を営んでいたそうだが、稲作が始まる前は北海道の食糧事情がもっとも恵まれていたらしい。
縄文人は、どうやってエゾシカを捕まえていたのだろうか。