5月29日、注文しておいた「じき宮ざわ」の料理が届いた。
取り寄せは3回目になるが、お願いしたのは前回と同じく「晩酌せっと」と「伝助穴子の薬膳鍋」。
バンビことパンクな彼女は「晩酌せっと」の箱を開けて、「ばちこが入っているよ!」と興奮の極致に。
日本三大珍味に数えられるのは、塩ウニ、このわた、カラスミだが、このわたはナマコの腸の塩辛である。
それに対して、ナマコの卵巣を天日干しにしたものが「ばちこ」で、三味線のバチの形をしているところから、そう呼ばれるようになったもの。
「ばちこ」ひとつを作るにも数十匹ものナマコが必要になるが、珍味にしては癖がなく、上品な香りと味わいが特長である。
三大珍味にひけをとらない。
純米酒にも吟醸酒にも合うが、普通に流通しているばちこは茶褐色で硬いのに、じき宮ざわ特製のばちこはオレンジ色で、半生のような柔らかさ。
こんな「ばちこ」は食べたことがない。
「晩酌せっと」は、前回と同じくカラスミと鰆の薫製が入り、ばちこと蛸の柔らか煮、大根とキュウリの醤油漬け、山菜のやぶれがさの佃煮という内容だった。
「宮ざわさん気分になる器を出してあげて!」というバンビのリクエストで、またもや器を揃えてみることになったのだが、なかなかに難しい。
今回は、北大路魯山人で器組みを試してみることにした。
鼡志野角皿を中心にして、奥に伊賀釉の鉢、織部向付、手前が薬膳鍋用に刷毛目茶碗、ここまでが魯山人。
取り皿に尾形乾山の土器皿、蓮華は清朝も末期の色絵で、箸置きには平安時代の猿投陶片。
乾山の土器皿は、前回の五客組の一枚ではなく、離れの一客を求めたもので、ひと回り小さい。
しかし、いざ盛りつける段になって、「ばちこ」に感激したバンビが、いちばん大きい鼡志野に懐紙を敷いて「ばちこ」をドーンと置いてしまったものだから、さらに器が必要になり、鰆の薫製は魯山人の絵志野に、タコの柔らか煮とヤブレガサの佃煮は、それぞれ古唐津の馬盥小鉢に盛ることになった。
ばちこは目が覚めるほど素晴らしいし、カラスミや鰆の滋味深さは言うまでもない。
バンビはタコのあまりの柔らかさに驚いたり、ばちこに感激したりと忙しい。
明石産伝助穴子と鶏つくねに野菜がふんだんに入った薬膳鍋は、相変わらずの美味しさで、酒を飲むのを忘れるほど。
鍋用の魯山人の刷毛目はバンビが使い、私は昨年、ソウルの仁寺洞の骨董屋で求めた李朝の白磁小鉢を使った。
色絵の蓮華は、東京で五客組を求め、さらにハワイのアラモアナのアンティークショップで同じものをニ客見つけて買い足したもの。
中国系の移民が持ち込んだのだろうが、思いがけない出会いだった。
蓮華は、古作もめったにないし、作る陶芸家も少ないので、器組みのときに苦労するもののひとつだ。
そう言えば、陶芸家として、ぐい呑みや箸置きを初めて作ったのは魯山人だが、魯山人は蓮華も作っている。
およそ、食に関わるものすべてに、自分が納得できるものを求めたのだろうが、その徹底ぶりには脱帽するしかない。