コロナ禍で在宅勤務が増え、外食もままならないため、日々、自炊するしかなくなって、SNSでは、ここしばらく自炊疲れが話題になっている。
遠藤朋之氏と久しぶりに電話で話したのだが、「昼食が終わると夕食、何にするという話になりますね」、遠藤家では、そんな会話が日課になってしまったという。
これが日本のみならず、世界の家庭で起こっていることなのかもしれない。
2ヶ月、休業した鎌倉のダイニングバー、クルベル・キャンのオーナー・バーテンダー、秋山正治さんは「食事しか楽しみがないじゃないですか。昼飯のときに夕飯、何って聞いては、嫁に叱られてます」と言っていたが、たしかに家族全員が家にいて、毎日、三食作らなければならないとしたら、一日中、料理をしては洗い物をしているような気分になってしまうことだろう。
わが家では、手の空いているほうがキッチンに立つので、自炊疲れは感じないで済んでいる。
私など、むしろ、新しいレシピを試す機会になっているような気がしないでもない。
写真は、私が担当したある日の夕食。
とうもろこしを茹で、手羽元に塩・胡椒・カレー粉をまぶして土鍋で炒りつけたものと、ローマ風目玉焼き、自家製ぬか漬けで晩酌を始めた。
目玉焼きはローマの家庭料理で、トマトソースを敷いて玉子を割り入れ、モッツアレラチーズを散らし、パルミジャーノをすりおろしてオーヴンで焼いたもの。
主菜は、豚ロース肉のシャルキィティエールソースで、アスパラとブロッコリーを添えた。
塩・胡椒して小麦粉をまぶした豚ロース肉はバターでソテーし、トマトを白ワインで煮詰め、ピクルスとマスタードを加えたシャルキィティエール(肉屋さん風)ソースは、フランスの家庭料理だが、酸味が強く、初夏に合う。
御飯は玄米で、揚げ茄子の味噌汁。
アスパラやブロッコリーなどは茹でて冷凍してあるので、所要時間は30分ほど。
自炊する家庭が増えて、豚肉と野菜の価格が高騰したが、牛肉などの高級食材は値崩れしている。
たしかに春キャベツなど、出始めの3月には、ひと玉150円ほどだったのが、5月の連休には400円になっていた。
豚肉が使いやすいのも事実で、自粛生活が始まってから、わが家でも挽き肉、バラ肉、ロース肉を冷凍して常備している。
豚ロース肉は、酒と味醂で溶いた味噌に漬け込み、味噌漬けにすることも多い。
わが家では御飯は、ふだんは玄米だが、「ごだん宮ざわ」の宮澤政人さんからお店で使っている土釜を贈られてから、白米もよく炊くようになった。
土釜で炊いた白米の御飯は、驚くほど甘みがあって、冷めても香りがよく、それだけで御馳走という感じがする。
茶懐石のように、煮えばなを少しいただき、煮えたお米が御飯にかわっていくのを楽しむため、何度かおかわりするので、御飯茶碗は小振りのものを使うようになった。
バンビことパンクな彼女は江戸時代の黄瀬戸小碗、私は青上がりの灰釉無地の古唐津である。
白米を炊くときは、紅鮭か時鮭、ぶりの幽庵焼き、鯵か鯖の干物など焼き魚を一品、それに味噌汁、ぬか漬け、お浸し、大根おろしか納豆に常備菜のたらこと明太子、ブロッコリーなどを並べるが、これはもっぱら私がやっている。
土釜御飯のあまりの美味しさに、バンビは自家製の干物を作ると言い出し、干物用のネットを買い込んだが、鮮度のいい地物の鯵が手に入ったら試してみたいものだ。